• 煒水の漢詩歳時記  十一月

    2018年11月1日

    11月は自然が晩秋から冬のよそおいに変わる季節です。深まる秋と強まる寒気は、山中の樹々や街路樹を紅葉させ、町中の景色までも寂しくさせていきます。           

    秋が悲しいのは、一年の移ろいが終わりの時期を迎えるからでしょう。ものごとの最終段階の一歩手前、それは最も感慨深い時です。まさに「有終の美」でしょう。               

    秋の漢詩には「雁」などの渡り鳥や「落葉」そして「砧」などが多く詠じられ、旅愁を募らせます。       

     

     

    秋興 八首    其の一               

                    杜甫(盛唐)

     

    玉露凋傷楓樹林

    巫山巫峽氣蕭森

    江間波浪兼天湧

    塞上風雲接地陰

    叢菊兩開他日涙

    孤舟一繋故園心

    寒衣處處催刀尺

    白帝城高急暮砧

     

     玉露 凋傷(ちょうしょう)す 楓樹の林

     巫山(ふざん) 巫峽(ふきょう) 氣蕭森(しょうしん)

     江間の波浪 天を兼ねて湧き

     塞上の風雲 地に接して陰(くも)る

     叢菊(そうきく) 両(ふた)つながら開く他日の涙

     孤舟 一に繋ぐ故園の心

     寒衣 処処 刀尺(とうせき)を催し

     白帝城(はくていじょう)高くして 暮砧(ぼちん)急なり

     

     (意味)

     玉のような露が、楓の林をしぼませ、傷つけ、           

     巫山や巫峡のあたりには、秋の気配がもの寂しく立ち込めている。       

     巫峡を流れる長江の波浪は、天空を巻き込むばかりに激しく沸き立ち、

     とりでのあたりの風をはらんだ雲は、大地にふれるほどに垂れこめて暗い       

     むらがる菊は今年もまた花を開いて、過ぎし日々を思い涙を誘い           

     一艘(いっそう)の小舟はずっと繋がれたまま、

     故郷を懐かしむ心を募らせる冬着の季節となり、どこの家でも裁縫に追い立てられているだろう       

     遥に白帝城が聳(そび)えるあたりまで、夕暮れの砧(きぬた)の音が響いている           

                   

    【語彙】               

    玉露:玉のような露 「白露」よりも冷たい感触の語               

    凋傷:しぼませ、そこなう。枯れさせること               

    巫峡:急流で名高い三峡の一つ       

    蕭森:静かで寂しい           

    叢菊:群生した菊               

    故園心:故郷を思う心、ここでは都長安を思う気持ち               

    刀尺:刃ものとものさし 転じて裁縫           

    暮砧:夕暮れの砧の音。愁いを誘う秋の風物詩           

     

    【鑑賞のポイント】

    この詩は大歴元年(766年)杜甫55歳の秋、夔州(きしゅう)で作られたもので、八首連作の第一首です。   

    第一首は秋の夕暮れの寂しさを、第二首は夜景を、第三首は朝を詠じ、第四首以降は都長安の述懐や戦乱での苦悩そして過去の栄光を懐かしんでします。

    この秋の夕景を描いたこの第一首、首聯(しゅれん)は巫山(ふざん)の景色を淡淡と詠い起こし、頷聯(がんれん)はその具体的な描写です。   

    頸聯(けいれん)は杜甫の心境を、そして尾聯(びれん)では砧(きぬた)の音で旅愁を深め結んでいます。           

    とくに、「江間波浪」からはじまる頷聯は荘厳で崇高な趣を帯び、名対句といわれています。   

     

    杜甫は夔州滞在中、今日に伝わる作品の三分の一に相当する430首もの詩を作っています。その時作られた詩の多くには、かつてのような情念の高まりや鋭い社会批判意識を見ることはあまりありません。そのかわり晩年の達観した杜甫の心が占めるようになっています。詩聖人といわれるゆえんではと思います。

     ちなみに、私はすべての漢詩の中でこの「秋興」が一番好きです。

     

     

    (佐藤煒水)

    煒水の漢詩歳時記  十月

    2018年10月2日

    陰暦の10月は秋が深まる季節です。夏や冬の三か月間は季節が安定しますが、10月は秋から冬へ大きく季節が移り変わります。               

    月の光は冴え、9月の中秋の名月とは異なった輝きを見せます。           

    携帯電話やスマホなど、現代では家族や知人そして意中の人との通信手段はいろいろありますが、漢詩の世界では、月は遠く離れた人たちへの思慕を伝えるアイテムです。       

     月の輝きは、遠く離れた人同士を結びつけ、同時に郷愁を誘います。秋の深まりは、詩人たちに悲愁の思いをつよく抱かせ、作詩にむかわせます。               

     

    静夜思  

        李白(盛唐)

     

    牀前看月光           

    疑是地上霜           

    挙頭望山月           

    低頭思故郷         

     

     

     静夜思

     牀前月光を看る

     疑ふらくは是れ地上の霜かと

     頭(こうべ)を挙げて山月を望み

     頭を低(た)れて故郷を思う

     

      (意味)           

      ベットのあたりに差し込む月の光をじっと見つめる           

      ふと、それは、地上に降りた霜かと思った           

      顔をあげて遠くの山にかかる月を眺め   

      顔を伏せて、故郷を懐かしく思い出す。               

     

     李白の詩は一般的に豪放な詩が多いですが、この詩は、非常に内省的です。これも、李白の特徴のひとつです。   

    「看る」「挙げる」「望む」「低れる」「思う」などの動詞が作者の心中をよく表しているのではと思います。       

     

    【語彙】               

    静夜思:静かな夜にもの思う  牀前:ベットのあたり  疑是:まるで〜のようだ       

    ★起句(一句目)の「看月光」を「明月光(明月の光)」とする本もある。日本人の愛読した唐詩選は前者ですので、日本では「看月光」が多く、逆に中国では「明月光」が一般的です。           

                   

     

    【作者紹介】       

     李白(りはく) 701年(長安元年)〜762年10月22日(宝応元年9月30日))       

     中国の盛唐の時代の詩人です。字は太白。号は青蓮居士。唐代のみならず中国詩歌史上において、同時代の杜甫(とほ)とともに最高の詩人とされています。奔放で変幻自在な詩風から、後世に『詩仙』と称されました。         

     李白の出自および出身地には諸説ありますが、中央アジアのキルギスという説が有力です。李白の父は「李客」と呼ばれ、正式の漢人名を持ったという形跡がないこと、また後年の李白が科挙を受験しなかったこと、そして、詩風が当代の詩人たちと異なることなど、私は李白が漢民族ではなかったのではないかと思っています。

     

     

    「煒水の漢詩歳時記」 9月

    2018年9月7日

     古代の中国の人たちは、奇数を「陽」そして偶数を「陰」と考えていました。そして、奇数の重なる月日は陽の気が強すぎるため不吉とされ、それを払う行事として節句が行なわれていました。特に、九月九日は最も「陽」が強く、負担の大きい節句と考えられていました。しかし、後に、陽の重なりを吉祥とする考えが広がり、今では、最も重要な祝い事の日として「重陽(ちょうよう)の節句」が定着しました。重陽は、高い所に登り、遠くを望んで郷愁や望郷の思いを慰める日となりました。また、重陽の日は、健康長寿のため菊酒を飲み、身に茱萸(しゅゆ:カワハジカミ)を帯びて災厄を祓います。   

     

    蜀中九日登玄武山旅眺                     

                             王渤(初唐)

     

    九月九日望鄕臺   

    他席他鄕送客杯   

    人情已厭南中苦   

    鴻雁那從北地來   

     

     蜀中九日(しょくちゅうきゅうじつ)玄武山に登り 旅眺す

     九月九日 望郷の台

     他席 他郷 客を送るの杯

     人情 已に厭う 南中の苦

     鴻雁 那ぞ 北地より来たる       

     

      (意味)

       九月九日、陽用の節句に故郷を望む台に登る。   

       他の宴席では、杯を交わし異郷に旅立つ人を送っている。               

       人々の気持ちは、すでにここ蜀中の暑さには辟易としているのに、           

       雁はどうして北の地からわざわざこの地に飛来するのであろうか。           

     

    【語彙】        

    旅眺:旅先での眺め   九月九日:陰暦の重陽の節句

    望郷台:成都の北にあった台   他席:ほかの宴席

    他郷:生まれ故郷でない土地   客:旅人

    南中苦:蜀(いまの四川省)の地の暑さ           

    鴻雁:秋に中国に飛来する渡り鳥。大きなものを鴻といい、小さなものを雁という       

    那:どうして、「何」と同じ       

     

    【作者紹介】

     王渤(おうぼつ):650年(永徽元年)〜676年(上元3年)           

    唐代初期の詩人。字は子安。隋末の儒学者王通の孫。幼くして神童の誉れ高く、六歳で文章を作り、十四歳で科挙に及第した。しかし、左遷が多く、官途には恵まれなかった。               

     二十歳から二十二歳まで蜀中を遊歴した。この詩はこの時のものである。

     楊炯(ようけい)、盧照隣(ろしょうりん)、駱賓王(らくひんおう)とともに「初唐の四傑」と呼ばれた。       

     

                 

     秋の訪れを告げる雁は、初夏の燕同様に、季節の移り変わりを人々に知らせる「候鳥(こうちょう)」である。   

     通常は雁の飛来は秋の到来であり、喜ばしいことではあるが、この詩は「なぜ、この住みにくい蜀へ来るのか」と反問しているところが面白い。これは、雁の来る北方の都に帰りたいという作者の願望なのだろう。       

     十日菊、六日菖蒲という熟語がある。重陽の節句の菊や端午の節句の菖蒲は値打ちがあるが、節句の翌日の菊や菖蒲は時期遅れであるという意味である。今でいうなら、二十五日のクリスマスケーキといったところか。

     

    佐藤煒水

    水明書展 青少年部 講評より

    2018年8月14日

     水明書展 第67回青少年展は、多くの作品が並び沢山の方が見に来られて大盛況でした。

    最終日に行われる表彰式が、台風のため8月12日に京都文化博物館5階の小部屋でおこなわれました。。

     そのとき、講評でとっても良いお話をされたので、ご紹介します。

     今年の出品数は620点。それぞれが素晴らしく、全ての作品に努力賞を差し上げたいと思います。

     と言いますのは、あの1枚を出品するために、たった1枚しか書いていないという人はいないでしょう。

    それぞれが先生の指導を受けながら、練習を重ねたに違いないと思います。

     だからその努力に、まず努力賞を差し上げます。

     

     皆さんに質問です。

    何枚ぐらい書きましたか?

    10枚ぐらいの人?

    20枚は書いたよという人? 30枚? 50枚以上の人?

    さすが、ここにおられる皆さんは数えきれないくらい沢山書かれたのでしょうね。

     

    さて、ここで私が申し上げたいのは、

     書くときに考えてほしいのです。

     

    私が教えている子供たちの中には、「3枚書いて」というと、ただ何も考えず「書いた!」と

    持って来る子がいます。

    1枚書いたら、どこがおかしいか考える。次はここを気を付けよう! この線はもっと長く書いてみよう!

    などと意識して考えて書くことが大切です。

     ただ何も考えず書いても良い作品は出来上がりません。

     このことは、勉強やスポーツにも言えることです。

     

     皆さんの今回の作品は最高だったと思っておられるでしょう。

    でも、最高はさらに上へと塗り替えられます。

     

     みなさん! 来年も、みなさんの素晴らしい作品を期待しています。

     簡単ではございますが、講評とさせていただきます。

     

     

    表彰式に参加できなかったみなさんにも、ぜひこの講評のことばを頭に置いて

    おけいこにはげんで頂きたいと思いました。

     

    (小塩美映)

     

     

    漢字ゲームこぼれ話 その2

    2018年8月8日

    大好評! 漢字ゲーム

     

     

    第67回水明展青少年部で行われた漢字ゲーム、評判はおおむね好評でした。

    こんな楽しいゲーム、皆さんも作ってみませんか?

     

    自分で作るときは、少し厚めの紙(画用紙など)を「名刺」か「カルタ」

    くらいの大きさに切ります。

     

    そのカードに、学校で今までに習った漢字を分解して書いて行きます。

    へんとつくり、かんむりとあし、などたくさん書いてくださいね。

     

    ただ組み合わせるだけでは、簡単すぎてつまんないや、というかたは

    違った組み合わせ方もやってみてください。

     

     たとえば、2枚ではなく3枚以上のカードを組み合わせて一つの漢字を

    作ってみるというのは、いかがですか?

     「立」と「日」と「心」を上から下にならべると『意』、「心」の代わり

    に「十」を使うと『章』ができます。

     『盟』、『萌』、『墨』、『盆』、『働』なども3枚のカードで

    できそうです。

     

     ここでちょっと話は変わりますが、「林」を分解してカードを作っていた

    時に気づいたのですが、「林」はへんもつくりも「木」ですが、同じ「木」

    でもへんとつくりではかなり様子がちがいます。へんの方の「木」は真ん中

    から右側がとても短く、最後の右はらいは、点のようです。

     へんの右側にはつくりがくるので、ぶつからないよう、へんが遠慮して

    右側を小さくしたのでしょう。

     同じように「火」「金」なども「ひへん」や「かねへん」になると、右側が

    とてもみじかくなります。

     

     漢字ゲームのカードを作って遊ぶと、ほかにも漢字についていろいろ気づく

    ことがあるかも知れません。

     漢字はとても奥深くておもしろいものです。漢字に興味がもてれば、漢字を

    おぼえたり、漢字を筆で書いたりすることがきっと楽しくなるでしょう。

    (小塩美映)

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