「煒水の漢詩歳時記」 7月

 7月7日は七夕の日です。

 この夜は天上の織女星(こと座のベガ)と牽牛星(わし座のアルタイル)が一年ぶりに再会する日です。

 この七夕の物語は中国の神話伝説の中でも、よく知られたたいへんロマンチックな伝承の一つです。

 この伝説の起源については、春秋時代に成立した「詩経」小雅(しょうが)にみられますが、そこには男女の愛の記述を見出すことはありません。一番初めに牽牛(けんぎゅう・ひこぼし)と織女(しょくじょ・おりひめ)の愛の物語がはっきりと記されたのは、後漢のころに作られた「文選(もんぜん)」に収録された「古詩十九首」の中の一編です。

 今月は「古詩十九首 其の十」を紹介します。

 なお、七夕は、現在では夏の行事のように見えますが、旧暦では立秋の後の初秋の行事です。

 

 古詩十九首 其十       無名氏

迢迢牽牛星  

皎皎河漢女  

纖纖擢素手  

札札弄機杼  

終日不成章  

泣涕零如雨  

河漢清且淺  

相去複幾許  

盈盈一水間  

脈脈不得語  

 

迢迢(ちょうちょう)たる牽牛星

皎皎(こうこう)たる河漢の女

纖纖(せんせん)として素手を擢(あ)げ

札札(さつさつ)として機杼(きちょ)を弄す

終日 章を成さず

泣涕 零(お)ちて雨の如し

河漢 清く且つ淺し

相去ること複た幾許(いくばく)ぞ

盈盈(えいえい)たる一水の間

脈脈(にゃくにゃく)として語るを得ず

 

(意味)

 遠く離れた彦星

 光り輝く織姫星

 織姫は白く細い腕を動かし

 素早くさっさっと機を織る

 一日かけても綾模様は織りあがらず

 降る雨のように涙が流れる

 銀河は清らかで浅い

 二人の間はどれほど離れているのだろう

 流れてやまない一すじの河を隔てて

 二人は黙っているだけ

 

  【語彙】

  無名氏:詠み人知らず

  迢迢:はるかかなた、  河漢:天の川、     繊繊:かぼそいさま

  札札:機を織る音    機杼:横糸を織る道具  章:綾模様 

  陽関:敦煌の西南にある関所

 

 

 七夕の夜、地上では女の子たちが天に向かって五色の色糸を針に通し、庭に机を並べて酒や野菜、果物などを供えて、針仕事の上達を祈ります。これを「乞巧奠(きこうでん)」といいます。

 現在でも笹の葉にお願い事を書いた五色の短冊をくくりつける習慣があります。

 私の住むマンションは子どもが多いので、毎年、玄関に立てられた大きな笹の枝に、願い事が書かれた色とりどりのいろ紙が供えられます。びっくりするのは、その中に金や銀のいろ紙があることです。「乞巧奠」で使う糸の色は青、赤、白、黒、黄の五色です。

 

京都北野天満宮の七夕祭りの短冊

 

(佐藤煒水)

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