煒水の漢詩歳時記  十月

陰暦の10月は秋が深まる季節です。夏や冬の三か月間は季節が安定しますが、10月は秋から冬へ大きく季節が移り変わります。               

月の光は冴え、9月の中秋の名月とは異なった輝きを見せます。           

携帯電話やスマホなど、現代では家族や知人そして意中の人との通信手段はいろいろありますが、漢詩の世界では、月は遠く離れた人たちへの思慕を伝えるアイテムです。       

 月の輝きは、遠く離れた人同士を結びつけ、同時に郷愁を誘います。秋の深まりは、詩人たちに悲愁の思いをつよく抱かせ、作詩にむかわせます。               

 

静夜思  

    李白(盛唐)

 

牀前看月光           

疑是地上霜           

挙頭望山月           

低頭思故郷         

 

 

 静夜思

 牀前月光を看る

 疑ふらくは是れ地上の霜かと

 頭(こうべ)を挙げて山月を望み

 頭を低(た)れて故郷を思う

 

  (意味)           

  ベットのあたりに差し込む月の光をじっと見つめる           

  ふと、それは、地上に降りた霜かと思った           

  顔をあげて遠くの山にかかる月を眺め   

  顔を伏せて、故郷を懐かしく思い出す。               

 

 李白の詩は一般的に豪放な詩が多いですが、この詩は、非常に内省的です。これも、李白の特徴のひとつです。   

「看る」「挙げる」「望む」「低れる」「思う」などの動詞が作者の心中をよく表しているのではと思います。       

 

【語彙】               

静夜思:静かな夜にもの思う  牀前:ベットのあたり  疑是:まるで〜のようだ       

★起句(一句目)の「看月光」を「明月光(明月の光)」とする本もある。日本人の愛読した唐詩選は前者ですので、日本では「看月光」が多く、逆に中国では「明月光」が一般的です。           

               

 

【作者紹介】       

 李白(りはく) 701年(長安元年)〜762年10月22日(宝応元年9月30日))       

 中国の盛唐の時代の詩人です。字は太白。号は青蓮居士。唐代のみならず中国詩歌史上において、同時代の杜甫(とほ)とともに最高の詩人とされています。奔放で変幻自在な詩風から、後世に『詩仙』と称されました。         

 李白の出自および出身地には諸説ありますが、中央アジアのキルギスという説が有力です。李白の父は「李客」と呼ばれ、正式の漢人名を持ったという形跡がないこと、また後年の李白が科挙を受験しなかったこと、そして、詩風が当代の詩人たちと異なることなど、私は李白が漢民族ではなかったのではないかと思っています。

 

 

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